日本代表 田中二朗シェフにインタビュー!作品を通し世界を唸らせた明日へ繋がる美味しさとは…

2022年12月23日金曜日

WCM21/22 インタビュー 大会-フランス

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「25年を経てたどり着いた、職人としての責任と使命」― 田中二朗

神奈川県鎌倉市にあるCALVAの田中二朗シェフ(以下二朗シェフ)は、チョコレートの世界大会ワールド チョコレート マスターズ(以下「WCM」と表記)の「#TMRW(明日)」というテーマに対して、「DELIGANT(デリガント)※」という独自のコンセプトをもとに考えたお菓子を提案しました。

※デリシャス+エレガントの造語

DELIGANTが目指すのは、一人一人に寄り添った「美味しさ」を提案すること。そしてマイノリティがマジョリティの一部になること。

二朗シェフが提案したお菓子は、味覚に関する4部門のうち3部門でベストカテゴリーアワードを受賞するなど、審査員からも「美味しい」と評価されました。その作品について、二朗シェフにお話を伺いました。

~~~~トピックス~~~~

🍫#SHARE みんなでシェアするデザート
🍫#TRANSFORM あらゆるニーズにモノコンセプトで応える 
🍫#TASTE 地元の食材を使用したフレッシュなデザート
🍫#BONBON サステナブル を追及して生まれたチョコ型を使わない、全く新しいボンボン
🍫#WOW 作品のコンセプトを詰め込んだコンセプチュアルなショーウィンドウディスプレイ 
🍫#DESIGN 色を使わずに、視覚効果を活用したデザイン 

🍫#SHARE みんなでシェアするデザート

― #SHAREの課題で提案したお菓子について説明をお願いします。

「#SHAREは、みんなで分けて食べられること。誰でも食べられること。それが、この課題に求められる本質だと思います。だから僕はアレルギーの人も食べられるように、アレルゲンフリーのデザートを提案しました。」(二朗シェフ)

二朗シェフが提案したデザートは、卵やバターを使用した他のデザートよりも、「美味しい」と評価をいただき部門賞を獲得しました。アレルゲンフリーで美味しいお菓子を作ることがいかに難しいか理解している審査員から評価いただいたことは、二朗シェフにとって大きな価値があったそうです。

二朗シェフの#SHARE作品 DELIGANT “A”: LUCKY SHARE COCOA POD FOR EVERYONE

― お菓子のアイデアはどのように考えられたのでしょうか。アイスを選択した理由や、材料のこだわりなどあればお願いします。

「チョコレートは栄養価も高く、アレルギーにも引っ掛からない食材です。だからこそ、この世界大会でチョコレートの可能性を示すには、アレルゲンフリーで提案することが未来の可能性を最も広げることになるんじゃないかと思いました。

アイスを選択した理由は、モナリザ(3Dプリンタで作られるチョコレートアート)のデコールを使うことが大会ルールにあり、このデコールをどう美味しく食べてもらうか考えた結果、熱いソースで溶かすことにしました。温かいものを冷たいアイスと提供するのが、フランスのクラシックなデザートの在り方であり、最も美味しい食べ方だからです。」(二朗シェフ)

また、二朗シェフは試食審査の順番が9番目ということもあり、既に8個もデザートを食べた審査員に美味しく召し上がっていただくために軽く食べられるアイスを選択されたそうです。

競技中、多くの審査員がシェフの周りを取り囲みカメラ撮影や質問をされていました。

この他にも、アレルゲンフリーでつくるデザートを、シェフが目指す味に仕上げるために廃棄されるお米をアップサイクリングし独自で開発した「米粉」を使用しているそうです。

材料そのものから開発し、美味しさを追及する背景には、「チョコレートのアイスクリームを食べられない世界中の子どもたちにも美味しく食べてもらいたい」という想いがシェフの原動力となっていました。

🍫#TRANSFORM あらゆるニーズにモノコンセプトで応える

― #TRANSFORMの課題で提案したお菓子について説明をお願いします。

「#TRANSFORMは、事前に提示された6つのターゲットイメージから3つ選択し、彼らの要望に対してモノ(単一)コンセプトでどう答えるかという課題でした。

僕は、エクスプローラー、ヘルスシーカー、スポーツヒーローを選びました。」(二朗シェフ)


#TRANSFORMの課題にだされた6つのターゲットオーディエンス
(出典:WCM’22 競技ルール資料より)

「一つ目のエクスプローラーは、探検家のように新しい体験を求める人たち。彼らをどう驚かせるか考え、フランスのコース料理をヒントに、全く新しいサラダのチョコレートバーを作りました。

材料はヴィーガンの人も食べられるよう100%プラントベースにこだわり、トマト、ピニョン(松の実)、オリーブを合わせて、ガナッシュにはバジルを合わせたサラダを提案しました。これらの食材はチョコレートともマッチしていて、審査員からも好評でした。」(二朗シェフ)

「二つ目のヘルスシーカーは、健康志向の人たち。彼らにどのように美味しさと健康を提供するか考える中、スペシャルダイエタリー(特別な理由で食事制限 がある人)の方にも食べてもらえるように砂糖ゼログラムのチョコレートバーを作りました。

材料は、ペカンナッツ、ミント、イチゴを使用し、ガナッシュには砂糖が入っていないホールフルーツチョコレートの『エヴォカオ』を使用しました。そこに、ずっと開発してきた血糖値の上昇が少ないモンクフルーツ(羅漢果)の天然甘味料を使用することで、砂糖ゼログラムでも美味しく食べられる提案をしました。」(二朗シェフ)

#TRANSFORMのお菓子を組み立てる様子。
大会では、48本(16本×3種)のチョコレートバーを作りました。

「これは僕の考えですが、お菓子を食べる意味はビタミン補給にあるんじゃないかと思います。いわゆる三大栄養素は食事で摂取できるので、お菓子を食べる意味を考えると無いに等しい。でも、現代はお菓子をただ食べたいから食べていることが多く、本来の「食べる」という意味から外れています。本来「食べる」行為は命をつなぐことで、生きるためにあるはずなのに、世の中が裕福になって食べることは楽しむための行為になっていると思うんです。」(二朗シェフ)

二朗シェフは、「食べる」ことの本質を追及し考えを深める中で、将来お菓子が無くなる可能性もあるのでは無いかと不安もよぎったそうです。そんな中、シェフが考えたどり着いたのが「ビタミンを効率的に摂るためにお菓子を食べる」ということでした。

そうしたことから、スポーツヒーローのチョコレートバーは、1回の食事で多くのビタミンCを吸収できるよう、ビタミンC食材とビタミンE食材をうまく配合したものを提案されたそうです。

― 提案されたチョコレートバーのデザインを見ると、表面のアルファベットがそれぞれ浮き上がっているデザインになっていますが、その意図を伺えますか? 

二朗シェフの#TRANSFORM作品 DELIGANT “G” / DELIGANT “E” / DELIGANT “L” 

Gはスポーツヒーロー、Eはヘルスシーカー、Lはエクスプローラーと、3つのターゲットごとに一文字ずつ異なるアルファベットが浮き上がるデザインになっています。

「DELIGANTのアルファベットを各提案で引き立たせるように、キーとなる一文字だけ高さを変えて浮き上がらせるようにしました。着色してデザインを変えることもできますが、色で変化させるのはチープな印象になります。それに、国内予選でも提示されていた哲学のひとつに「ミニマリズム」というキーワードがあり、それは必要なものだけを使うことを求めているので、色を使う必要がないと思いました。」(二朗シェフ)

「見た目を派手にすることは、簡単にできる。でも、やるべきことは本質的な部分だと思う」と二朗シェフは話します。

シェフは全ての作品に対してこの思いを貫いた結果、審査員にはそれが「美味しさ」として伝わり評価されましたが、画面越しに見ている消費者には、伝え方の工夫が必要だったかもしれない。と今大会を振り返ります。

🍫#TASTE 地元の食材を使用したフレッシュなデザート

― #TASTEの課題で提案したお菓子について説明をお願いします。

「#TASTEは、フレッシュであることと地元の食材を使用することがルールでした。

僕は地元食材として、美味しいだけでなく栄養素も豊富な日本が誇る宝物のような果物の「柚子」を選びました。その栄養を余すことなく、どうお菓子に活かせるかと考え、最終的には柚子を丸ごとお菓子に使用しました。」(二朗シェフ)

二朗シェフの#TASTE作品  DELIGANT “N”: YUZU CHOCOLATE COCOA POD

軽いチョコレートムース、フレッシュな柚子の香り、クレープ・ダンテルのパリパリとした食感が同時に口の中いっぱいに広がります。

「栄養素の話をすると、柚子にはリモネンとポリフェノールという栄養素が含まれており、リラックス効果が期待できます。だからチョコレートの持つポリフェノールと、柚子を合わせて使うことでよりリラックス効果の高いお菓子を提案できるのではないかと考えました。柚子はビタミンCも豊富で、ビタミンCには必要以上の糖の吸収を抑える作用もある。 味覚の観点でも非常に香り高い果物です。だからチョコレートと合わせるには柚子がベストだと考えました。ただ、柚子とチョコレートを合わせるのは意外と難しく、味のバランスをとるのに苦労しました。試作回数も一番多かったと思います。」(二朗シェフ)

― #TASTEの材料にも使用されている、大会用に作成されたチョコレート「オールノワール デリガント」は、どんなチョコレートを目指し作られたのでしょうか。

「僕のコンセプト「デリガント」に合うチョコレートを作りました。

デリガントとは「美味しさ+エレガントさ」の造語です。「それってどういうことなの?」というと、答えはひとつではないと思います。僕にとって「美味しさ」というのはマストで、エレガントさというのはこれからの時代一人一人に寄り添ったものでないといけない。その中の一つが「アレルギーフリー」という観点です。」(二朗シェフ)

2022年2月21日、 Chocolate Academy™(チョコレートアカデミー)センター東京で自身のオールノワールを作りました。当時の様子はこちら

「ところが、アレルギー対応を考える中で一つどうにもならないところがあります。それがナッツ。日本ではいくつかのナッツはアレルゲン表示義務が無いのですが、海外だと、全てのナッツがアレルゲン食材に該当します。しかしながら、お菓子を作る上では、ナッツにしか出せないまろやかさや風味があります。」(二朗シェフ)

「だから僕は、オールノワールにナッツの風味を持たせたスタンダードラインのチョコレートを開発することにしました。ベースにはガーナのカカオ豆を使用し、ナッツのフレーバーを感じるカカオ豆を合わせ、ナッティな風味のチョコレートを作りました。そうすることで、アレルギー食材のナッツを使わなくても、チョコレートがナッツの風味を補うことで、作りたいお菓子が作れるようになる。それが僕のオールノワールです。」(二朗シェフ)

🍫#BONBON サステナブル を追及し、生まれたチョコ型を使わない全く新しいボンボン

- #BONBONの課題で提案したお菓子について説明をお願いします。

「今大会で提案する#BONBONは、お店のスペシャリテになると思い、お店の名前「CALVA」にもあるリンゴを使用したものを作りたいと考え始めました。また、国内予選の時からテーマに含まれていた「サステナブル(=持続可能な社会)」も意識して考えていくと、プラスチックのモールドを使用すること自体が問題じゃないかと思えてきました。この他、ルールでもイノベーションすることを求められていたので、必然的にモールドを使うことは、僕の選択肢から外れました。」(二朗シェフ)

「次に、作品全体を通してカカオをコンセプトに進めていたので、#TASTEと#SHAREはカカオの断面をイメージ、#BONBONもカカオで…と考えていく中で、ディップする形で何かできないかと早い段階から考えていたのですが上手くいかない日々が続きました。」(二朗シェフ)

そんな中、ふとカカオが木からぶら下がっている様子を見て、何かこういう形で作れないかと考える中ホームセンターで、キャンプ用品のペグを見つけ、「これで作れる!」と思いついたそうです。

シェフ自らが考案された、モールドを必要としないチョコレートの器具。何度も器具をディップして、カカオを大きく育てます。

競技の最終日になると、田中シェフの作品に注目が集まり、多くの審査員が興味深くシェフの作業を観察していました。田中シェフの#BONBONは、審査員だけではなく主催者側のシェフ達の興味も集め、観客席からは田中シェフの作業が見えない程の人だかりになっていました。

「考えてみると、人間もカカオも同じものは無い。自然界にあるものって全て異なる個性があります。だから、重力でチョコが垂れて、だんだんとボンボンが成長していく様子を見ていると、

それが、人間とカカオの共通点だと気づきました。みんな強い個性を持って生まれ、様々な経験を経て優しさを覚え成長し、骨格がついていく。そうしたコンセプトを思い描き、成長していくカカオということで、名前も「グローイングカカオ」としました。」と二朗シェフは話します。

二朗シェフの#BONBON作品 DELIGANT “I”: GROWING COCOA BONBON 。センターにはりんごのコンフィが入っており、4層それぞれの個性や優しさが感じられます。カカオポッドの両端のプラリネとくるみのカリっとした食感が面白いです。

完成した#BONBONは、個性の強いエピスを利かせたアップルコーラのガナッシュつけ、それを優しい甘さのショコラブラン「ゼフィール」で包み、最後に黒糖のプラリネとくるみでコーティングし成熟させた後、装置を抜いた穴の部分に、二朗シェフのお店「CALVA」の象徴であるリンゴを使用したコンフィを入れることで、二朗シェフにしか作れない#BONBONが完成しました。

🍫#WOW 作品のコンセプトを詰め込んだコンセプチュアルなショーウィンドウディスプレイ

- #WOWの課題で提案したディスプレイについて説明をお願いします。

「僕のコンセプトであるDELIGANTの文字を重ね、それぞれに各テーマ(課題作品)で使用した素材を詰め込んだものを作りました。」(二朗シェフ)

完成間近の#WOW ディスプレイ。奥の壁には、各作品に紐づく8文字のアルファベットとコンセプトをタイポグラフィで魅せています。

D #DESIGN
E #TRANSFORM Explorer トマト、バジル、松の実
L #TRANSFORM  HealthyのL 苺
I #BONBON InnovateのI ボンボンショコラ りんご
G #TRANSFORM EnergyスポーツヒーローのエネルギーのG パイナップル、オレンジ、バナナ
A #SHARE Allergen freeのA とうもろこし、フランボワーズ
N #TASTE Nutriments(栄養素)のN 柚子
T #TMRW Tomorrowのアルファベット

「全てのDELIGANTは、全てのコンセプトに直結していてそれぞれの課題で使われた食材で作られています。」(二朗シェフ)

🍫#DESIGN 色を使わずに、視覚効果を活用したデザイン

二朗シェフの#DESIGN作品 DELIGANT”D”

他の選手が見た目を重視したミニピエスに仕上げる中、田中シェフの#DESIGNは視覚効果を利用した新しい提案が際立っていました

― #DESIGNの課題で提案した作品について説明をお願いします。

「事前に大会側から提供された白い8枚のディスクを使うことが課題で、それを活かして何ができるか考えました。コンセプトのDELIGANTもアルファベット8文字なので、文字を落とし込むことを考えていく中で、線で文字を作ることを思いつきました。そうすると、見る角度によって視覚効果で文字が浮き上がって見える表現を考えました。」(二朗シェフ)

なんとここで使用されたパーツは全部で148個あり、すべてが違うパーツで作られているそうです。

近くから見ると、繊細なパーツが連なって文字を作っているのが見えます。

底面にチョコレートを流し込み「TMRW」の文字が浮き上がります。

- WCM大会を終えて、今後の展望などお聞かせください。

「職人として経験がある人ほど、今回の僕の戦い方がいかに難しいチャレンジをしていたかは伝わったと思います。審査委員長のアモーリ=ギション氏も、「国際大会で味覚をここまで評価された日本人は、二朗が初めてだよ。」とわざわざ僕のところに迄来て伝えてくれました。また、他の審査員からも「二朗だけ全く違う提案をしていたね。だから#WOWの作品が壊れたことが本当に悲しい」という声もありました。

今後は、大会で評価されたアレルゲンフリーや、プラントベース、低糖質のことをもっと多くの人に共感してもらえるように取り組み広げていきたいと考えています。」(二朗シェフ)



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