歴代シェフインタビュー: 第6回 2015年代表 ショコラトリー ヒサシ 小野林範シェフ(後編)

2022年10月17日月曜日

WCM21/22 インタビュー 大会-概要 大会-日本

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 「ワールド チョコレート マスターズ」(以下「WCM」と表記)に出場された歴代シェフの皆様をご紹介。

京都府東山の「ショコラトリー ヒサシ」オーナーシェフである小野林範シェフのインタビュー後編をお楽しみください!

前編はこちら

テーマ「自然からのインスピレーション」で見事2部門の部門賞獲得、そして準優勝! ガラッと変わった大会の様子は?

― 2015年の大会からルールが大きく変わり、ショーの要素も加わりました。大会に挑むうえで困難だったことはありますか?

2015年にガサっと変わった時はとにかく審査員側が必死でした。審査員がついていけてない感じ。ただ僕思うんですけど、全て含めてコンクールやから、その場で勝ったやつが勝つ。

新しい取り組みに関しては可能性を見たいんですよ。良いものを受け入れるっていう文化、日本の外へ出るとそういう傾向が多いと思います。「いいものはいい、何かダメなの?」みたいな考えなんで。選手はしっかりルールを読み込んでいくので、そんなに困ってるみたいなのは無いんじゃないかな。ただ、「スイートスナックオンザゴー」部門とか、新しいカテゴリーに関しては結構大変でしたね。

準優勝を獲得した小野林シェフ

― 部門賞を獲得された、「スイートスナックオンザゴー」部門の「ブール・ショコラ」はたこ焼きをモチーフにした作品で審査員を惹きつけましたが、どのような経緯で思いついたのでしょうか?

僕、たねやの納涼祭の担当がたこ焼きなんです(笑)。本当です、結構有名なんですよ。大きいイベントホールを借りてやるんです。

まあそれは冗談ですけど、味は美味しくて当然で、どうやったら喜ぶかな?と。コンクールは競技である一方でショーでもあります。わざわざパリのサロンドショコラで、過去に見たことあるようなもの見せられたら、誰も評価しないのでは?っていうとこが最初の考えなんですけど、おもしろくて楽しいかどうかが一番大きいです。

部門賞を獲得した「ブール・ショコラ」

― 大会中の特に印象深いエピソードがあれば教えてください。

準優勝、悔しかったですけどね~。
大会中はすごかったです。初日、日本だけ電源が全部抜かれて、チョコレートが全部固まってるんですよ。養生して人が入れないようにしてたんですけど、それも全部取られて大会側には「それはセッティングの時にそうなったんでしょ」って言われて。

ただ僕は世界大会2回目だったので、事前準備してまして。セッティングをした時に、スマホで全部撮影したんですよ。審査委員長を呼んで、状況を説明してから、助手の子と一緒に何とか競技開始時間には準備を間に合わせました。この間クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー(以下CDM)に出た、原田誠也君が助手をしてくれていたので、「誠也、やるで」って呼んで。

助手に本当に僕は恵まれてたと思いますね。世界大会を見てきてる子だったので、阿吽の呼吸で何をして欲しいのかを知ってる。

WCM2015 当時の様子

審査員として、また田中シェフの同志としてのWCM 21/22

― 今回審査員として参加されますが、審査員として#TMRWをどう思いますか?

あんまり先入観を持つと面白くなくなるんで、ルールは全部読んだんですけど、逆に決めないでおこうと。裏切ってくれる作品が欲しいというか。やっぱり作り手なので自分ならこうするかなって思うじゃないですか。大会側も多分そう思っていると思うんです。いかに、知らないことを見せるか、知っていたことの全然違う使い方を提案するか?良い意味の裏切り、そういうものを#TMRWに期待したいなと思いますね。

ハッシュタグも含めて、#TMRWをどういう風に解釈するのか?どういう意味合いなのか?ブランドが決めているハッシュタグの意味合いと、いわゆるインフルエンサーが考える「明日」って意味合いもまた違うし。#TMRWっていう考え方に関しても、どこの観点からの「明日」なのか。本当の「明日」なのか、もっともっと先の話なのか。そのプレゼンテーションが素晴らしければ、必然的にポイントは上がりますよね。

― 田中二朗シェフと同じ舞台に立たれるということで、エールをお願いします。

もう充分頑張ってますからね。自分が感じているのは、バリーカレボーがコンクールを通じて、常に世界のチョコレートもリードしていくっていう方向性をとってる気がするんですね。バリーに関しては先進的にやっていくと。サステナブルの取り組みに関してもそうですし、エヴォカオとかね、新しいチョコレートに関しても、『宿題』みたいに出すんです。それは文句を言ってるわけではなくて(笑)、「これでなにする?」って、ドンっとお題だけ来るんですよ。

そのやり方がWCMにも表れてると思う。一歩どころか二、三歩先のテーマを出してくる。それでようやく世の中が追い付いてくるっていうやり方ですよね。

二朗はやっぱり日本だけじゃなく、世界が恐らくびっくりすると思いますよ。会社としてやっている取組や働き方、そういう思考がより早かったし。僕は同じ経営者であり同じ年齢なので、相談や話をものすごくするんですよね。コンクールって、普段やってないことは出ないし、急に「変身!」とかできないじゃないですか(注:変身ポーズをとろうとして)今できんかったけど(笑)。

普段やってきたことが、明らかに顕著な差で出る。それは所作、言動もそうだし、動きから味もすべて。その集大成が見られるのがこの大会なんですね。田中二朗が今までやってきた、東京プリンスから始まり、アテスウェイの川村シェフの下で培ったもの、渡仏、お兄ちゃんと一緒にお店を立ち上げ…。20年くらいコンクールやってるのかな?二朗の集大成が見られるっていうことなので、僕はそれが楽しみ。自分がちゃんとやり切る、そこだけですね。

「ショコラティエ」という職業を夢のあるものに!

― 「ショコラトリー ヒサシ」というお店からどんなことを発信していきたいですか?シェフが力を入れていきたいことは?

ずっとコンセプトにしているのは、チョコレートをもっともっと馴染みのあるものに、ということ。馴染みあるよって皆言うんですけどね。でも、美味しいもんを小さい頃からおじいちゃんおばあちゃんまで食べられるような、そういうお店をやりたくてショコラトリー ヒサシを立ち上げたので。

売り上げを伸ばすって結構簡単なんですね、店舗足せばいいだけやし。でもそれは「たねや」でやってきたから。10億、100億の仕事っていうのはマーケットの問題であって、ブランディングの方がやっぱり大事なんです。


そのためにやっていくことはたくさんあって、京都のチョコの位置というんですかね。京都は和菓子屋さんもまだ認知度が高いですけど、世代が変わっていくじゃないですか。その流れの中で、世代をまたいでそのチョコレートの文化っていうのをどういう風に取り入れていくか、そちらの方に僕は興味がある。

食育も含めて、教育をどうしていくか?それで初めて行政が動いて、初めて次のショコラティエが出てくる。食べてもらってなんぼなんで、餡子とチョコレートを合わせたものも必要やったらやるかもしれんし。寄せていくことも大事やと思いますね。ショコラティエという職業が、夢見られる状況にして行きたいっていうのだけが僕のゴールという訳ではないですけど。

フランス、ベルギーのヨーロッパ諸国へのリスペクトは発祥の地として大事だと思います。ただ日本のチョコレートの文化のあり方は、僕たち日本人のショコラティエが後世につないでいくこと。それは五年やそこらじゃできないので、コンクールやそれ以外の取り組みも含めて、二朗ちゃんもそうですけど、ショコラティエ達がいかに日本でもチョコのあり方っていうのを考えていくか。

自分のやりたいお店はあるんですよ、例えば、日本のカカオ農園の真ん中にお店!とか。農園通らんとうちの店来れない。農園で「暑っ!」ってなってからお店着いて「寒!」ってなる店(笑)。そういうのおもろいんちゃうかなって。そういうことはどんどんやっていきたいですね。

― インタビューを終えて…

小野林シェフ、お忙しいところお話をお聞かせいただきましてありがとうございました!

実は、歴代シェフインタビューをさせて頂く中で、WCMジャパンチームが取材前に最も緊張していたのが小野林シェフでした。ところが蓋を開けてみると、インタビューが始まって一番早く緊張が解けたのも、小野林シェフでした(笑)。

関西弁バリバリ、爆笑ポイント盛りだくさんの楽しいインタビューをさせていただきました。

四年制大学を卒業され、独立前までクラブハリエ一本など、異色の経歴を持つ小野林シェフ。常に冷静でありながら、「趣味は仕事!」とおっしゃる程自分の信念に向かって突き進む情熱を持ち合わせているからこそ、ショコラティエとして成功されているのだなと感じました。

これからのますますのご活躍をお祈りしております。

シェフプロフィール :
小野林 範
ショコラトリー ヒサシ オーナーシェフ 
1979年滋賀県生まれ。2017年4月より、カカオバリー大使に就任。
「ワールドチョコレートマスターズ2015」の世界大会で準優勝という輝かしい功績を収めているだけでなく、「2007年ジャパンケーキショー東京」チョコレート工芸菓子部門金賞、「トップ・オブ・パティシエ2010」チョコレート・ピエスモンテ&アントルメ部門優勝、「WPTC2012」チームJAPAN優勝等、チョコレートに関する数々の素晴らしい経歴を持っている。
「ワールドチョコレートマスターズ2015」では、同時に『ピエスモンテ』及び『スイートスナックオンザゴー』にて部門賞も獲得。
2018年4月、京都の東山に、初の自店「Chocolaterie HISASHI」をオープンした。


SHOP INFO :
Chocolaterie HISASHI
〒605-0033
京都府京都市東山区夷町166-16
075-744-0310
毎週月・火曜+不定休
open 10:30-18:00
喫茶スペース 17:30ラストオーダー

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