WCM’22 日本代表 田中二朗シェフの3日間をレポート!

2022年11月11日金曜日

WCM21/22 大会-フランス

t f B! P L

2022年10月29日から31日にかけてチョコレートの世界大会『ワールド チョコレート マスターズ’22(以下WCM)』が、展示会場「ポルト・ドゥ・ヴェルサイユ(フランス、パリ)」で開催されました。 
日本代表として出場されたCALVA(神奈川県鎌倉市)の田中二朗シェフ(以下、二朗シェフ)は7つの各課題の中で、最も高い点数を獲得した選手に与えられるベストカテゴリーアワードを#SHARE、#TASTE、#BONBON の3つのカテゴリーで受賞しました。

フランス パリ「サロン・デュ・ショコラ」の会場で3日間開催されるチョコレートの世界大会

↑観客席は各選手のサポーターをはじめ、多くの人が集まり大変な盛り上がりに!

WCMは、世界が注目するチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」の会場で3日間に渡り大変な賑わいと熱気の中開催されました。

DAY1_|課題は#SHARE(シェアするデザート)と#WOW(チョコレートのピエスモンテ

14時の競技開始を始める合図と共に、選手たちが一斉に#SHAREの作業にとりかかります。ところが序盤から二朗シェフにアクシデントが発生。シェフの作業場所だけ電気が繋がっていないのです。チョコレートアカデミー東京の尾形シェフやその他スタッフが復旧作業を進める中、二朗シェフは別の作業にとりかかります。その間になんとか電気が復旧し、応援席にいたサポーター一同もほっと安心。その後は順調に作業を進めていきます。

#SHAREは、バリーカレボーグループのデコレーションブランド「モナリザ」が提供する、3Dプリンタで作られるチョコレートアートを使用し、ディナーパーティ等のシーンで複数人で分け合って食べることを想定したデザートを作る課題です。3Dプリンタのデータは、4月にスペイン・バルセロナで行われた選手向けの「ブートキャンプ」で選手それぞれが好みのデザインを作成したものが使われました。

カカオの実をイメージした土台となる器を6つ円形に並べ、キャラメルポップコーン・ダークチョコレートのアイスクリームをトッピング。ラズベリーソースをかけて6人でシェアできるデザートの完成です。シェフは、アレルギーのある人も無い人も、隔てなく皆が美味しく食べられるデザートとして従来の動物性生クリームは使用せず、全く新しいお米をベースとしたアレルゲンフリーであり、プラントベースである製品を提案しました。


↑二朗シェフの #SHARE

そして、#SHAREには、二朗シェフが今回のテーマ「#TMRW(TOMORROW)」の彼の信じる「明日」への強い思いがありました。

#SHAREの作品で二朗シェフは、世界でよく知られている30種類のアレルゲン食材を一切使わずに作っています。アレルギーを考慮すると、皆とSHARE(シェア)するのは本当に大変なことです。二朗シェフの考える「DELIGANT」は美味しい(DELICIOUS)だけでなく、誰もが食べることができる、お菓子のエレガント(ELEGANT)さを今大会通しての共通テーマにしています。

本課題では植物性・アレルゲンフリーのアイスクリームのおいしさを飛躍的に向上させ、皆が美味しさと笑顔を分かち合えるきっかけになってほしい、というメッセージを込めた作品に仕上がりました。 

プレゼンテーションも見事に英語でアピールし、なんと18人中1位を獲得しました。


↑手際よく作業を進める二朗シェフ

会場内の作業台で#SHAREの課題を進めつつ、会場外周をぐるりと囲んだ、店舗のショーウィンドウを見立てたスペースへ走り、#WOW (ピエスモンテ)の課題にも並行して取り組みます。

#WOWは、各選手の#TMRWのストーリーを反映した架空のショップのウィンドウディスプレイにチョコレート、ココア、またはココア由来のみの素材を使用し、制作する課題です。道行く人々に「WOW」と驚きを与え、立ち止まらせるデザインと作品でなければなりません。

「体感温度は30℃以上だった」と後日シェフが語るほど、この日の外気温は11月に近くなったパリにしても異様に高く、さらに会場の熱気も最高潮に達する中で作業を進める二朗シェフ。ギャラリーもドキドキしながら見守ります。

シェフにとって作品全てのキーワードである「DELIGANT(デリシャスとエレガントの造語)」を型取った大きなチョコレートのパーツと、チョコレートで作ったパイプを柱のように重ねながら、下から絶妙な角度でパーツを積み上げていく二朗シェフ。一文字一文字に込められたコンセプトアルファベット型のバスケットに本物かと疑う様なカラフルなフルーツや野菜で華やかに仕上げていきます。

もうすぐ完成、制限時間まで残り5分!となったその時、ピエスモンテが上から崩れてしまいました。見ていたギャラリーから一瞬ため息が漏れかけましたが、二朗シェフを鼓舞すべく大きな拍手が沸き上がります。

アクシデントに見舞われながらも最後まで諦めずやり遂げた結果、#SHAREの1位が功を奏し、初日の結果発表では総合7位。なお、ベルギー代表として出場した松田詢吾シェフは、得意とするピエスモンテで点数を伸ばし、3位をマークしました。

↑二朗シェフの #WOW(手前はアシスタントの池崎さん)

DAY2_|課題は#TASTE(フレッシュパティスリー)と#BONBON(ボンボンショコラ)。そして#YOU(プレゼンテーション)

大会2日目は、二つの作品制作に加え、自身の作品について説明する1分間の英語でのプレゼンテーションが含まれます。

「味に自信がある」と語る二朗シェフ。初日に#SHAREで一位を獲得した波に乗り、同じく味覚部門である#TASTEと#BONBONで巻き返しを図ります。

#TASTEではルールで地元の食材を使用することが定められており、美味しいだけでなくビタミンなどの栄養が豊富であることから、シェフは柚子をチョイス。

この他、大会前に作成した自身のオリジナルダークチョコレート(オールノワール™)など様々なチョコレートを使用。自身の試食の順番が最後になることを考慮し、審査員が飽きないよう軽い食感にすることを意識したとのこと。

リッチ、ヘルシー、様々なフレーバーが感じられるフレッシュパティスリーとなりました。

↑二朗シェフの #TASTE

#BONBONでは「未来志向」であることが求められており、砂糖少なめ、天然素材を使用といったルールが定められています。

多くの選手が従来のモールドを使用する中、シェフは自らが考案した器具を使用して審査員の興味を引きつけました。棒状の金属の先にチョコレートを何度も浸しては引き上げるという作業を繰り返し、少しずつカカオポッドの形を作っていきます。最後に細かい溝の入った黒い器具をスーッとボンボンに通すと、カカオポッドのようなの表面の凹凸が現れました。

これには審査員も興味津々で、シェフは終始多くの審査員に囲まれて作業を進めていました。それだけではなくテイストもボンボンには珍しいスパイスを利かせたクラフトコーラ味のガナッシュと、フレッシュアップルを使用。バニラガナッシュとプラリネノワゼットで内側をコーティングしました。

層を重ねるごとに少しずつ成長し、完全に成熟したところで収穫されるというカカオの木に実るカカオポッドを、このボンボンは外側の形だけでなく、その過程も表しています。

↑二朗シェフの周りに審査員が大勢…!

↑審査員の注目を集めたボンボンの器具


↑上段左端が二朗シェフのボンボン

WCMはフランスで行われる大会ではありますが、審査員は世界各国から集まっているため競技中の公用語は英語であり、司会進行も全て英語で行われます。そのため、英語が使えるということも大きなアドバンテージの一つです。通常の課題では、作品のプレゼンテーションの際に通訳をつける選手もいますが、この日の最後の課題#YOUは通訳をつけず、選手自らが語る1分間のスピーチ。自国の言葉で話す選手やメモを見ながら話す選手も多く、残念ながら言いたいことがギャラリーに伝わっていないと感じることもありました。

しかし、二朗シェフは通訳兼英語の特訓コーチをつとめたマークさんからも「#YOUは完璧!」と太鼓判を貰っていたほどしっかり準備を重ねた甲斐もあり、ぴったり1分でパワフルなスピーチを行いました。

大会が用意した動画を背景に、堂々とスピーチを行う二朗シェフ

5つの課題を終えたDAY2の時点で、DAY3に進出できる上位10名のスーパーファイナリストが発表されます。発表の場では点数や順位は公開されず、選手一名ずつ名前を呼ばれ、IN(残留)かOUT(競技終了)かが伝えられていきます。 

ギャラリーがドキドキしながら見守る中、見事二朗シェフも松田シェフもスーパーファイナリストに選出!あと1日WCMが楽しめるということで一同大興奮でした。

DAY3_|TOP10のファイナリストのみが参加できる最終日。課題は #TRANSFORM(トランスフォーム )と#DESIGN(小さなチョコレートデザイン)

スーパーファイナリストとしてDAY3に進出された田中シェフ。

連日の緊張と疲労が重なる中、選手は最後の力を振り絞り2つの課題に挑みました。#TRANSFORMはある共通のコンセプトをもとに、3タイプの異なるターゲットオーディエンスを想定し、彼らのニーズに合わせて、3つの全く異なる作品を創作する課題です。

二朗シェフは「チョコレートエネルギーバー」をモノコンセプト(単一コンセプト)として選択しました。チョコレートバーとしてエネルギーの源であるショ糖や果糖をバランスよく加えることでエネルギーを効率よく摂取できる、というメッセージを込め、バナナ・アナナ(パイナップル)・トマトの3種類のスナックを提案。

この作品については、シェフの恩師でもあるアテスウェイの川村シェフも「この味は二朗にしか作れない」と太鼓判を押されるほどのハイクオリティな味に仕上がっています。

 ↑二朗シェフの #TRANSFORM

この日の二つ目の課題として、#DESIGNは事前に大会側から与えられた白いアクリル製のベースを必ず使用することがルールで、総重量5㎏以内の小さなピエスモンテを作ります。

二朗シェフは、それぞれのプレートに一枚一枚少しずつ形の異なるチョコレートの薄い板を並べていきます。ある角度から見ると「#DELIGANT」の文字が見えるという仕掛けで審査員を驚かせました。

↑二朗シェフの #DESIGN

↑上からみた様子。 「#」と「D」の部分

↑スーパーファイナリスト10名の作品の審査の様子

結果発表!ファイナリストたちが互いの技術をたたえ合う感動のフィナーレ!

18時。7つの課題を終えた後、いよいよ運命の結果発表が始まります。全てのファイナリストが集合し、それぞれ審査委員長であるAmaury Guichon氏からの総評と共に、点数が告げられていきます。

結果は、初日から最終日まで、圧倒的な勢いがあったスペインのLluc Crusellas氏が堂々の優勝。作品全体に「砂漠や砂、乾いた大地のイメージを使いたかった」とプレスインタビューで答えたシェフ。特に300kgのチョコレートを使用した象のピエスモンテの前には、写真におさめようと常に多くのギャラリーが集まっていました。

2位はフランス Antoine Carréric氏。、ブルターニュ出身で、全ての課題でブルターニュの素材を使用していました。3位はギリシャのNicolas Nikolakopoulos氏。

田中シェフは総合7位入賞を果たしました。また、ベルギー代表の日本人シェフ松田詢吾氏は総合8位に入賞しました。

↑見事優勝に輝いたスペインのLluc Crusellas氏

↑ファイナリスト18名が集まり、結果発表を見守ります

大会直後、関係者を集めたパーティーでは、各課題で最高点を獲得した選手に贈られるベストカテゴリーアワードの発表が行われました。二朗シェフは、大会の各課題(#SHARE、#WOW、#TASTE、#BONBON、#TRANSFORM、#DESIGN)において#SHARE、#TASTE、#BONBONで受賞。味覚を競う4部門中3部門で世界一に輝くという素晴らしい結果となりました!

↑ベストカテゴリーアワードのトロフィーを受け取る二朗シェフ

↑3つのベストカテゴリーアワード受賞!おめでとうございます!

松田シェフは初日の#WOWと#DESIGNでそれぞれ2位を獲得しており、味覚に強い二朗シェフとビジュアルに強い松田シェフが際立った大会となりました。

優勝を目指していた二朗シェフにとっては惜しい結果となりましたが、今まで日本人が苦手としていた、競技中の審査員へのアピール、新しい技法、そして自らの英語でのスピーチなど、日本人にとっての様々な#TMRWにつながるような戦い方をしていたのが印象的でした。

#TMRWという難解なテーマに向き合い、選手は80ページ以上にもわたるルールブックを熟知し、3日間一人で7つの課題に挑むという過酷な大会であることは確かですが、それでも参加する意義は、まさに大会の現場でしか味わうことのできない空気感、チームの一体感、達成感であると強く感じました。

↑10月9日からフランス入りし、3人で頑張ってきました(左よりアシスタントの池崎さん、二朗シェフ、同じくアシスタントの鈴木さん)

↑豪華なシェフ陣と。

(左上段より)ラパティスリーベルジュ 鈴木シェフ、パティスリーヤスシササキ 佐々木シェフ、二朗シェフ、洋菓子マウンテン 水野シェフ、パティスリーMORI YOSHIDA 吉田シェフ
(左下段より) アステリスク 和泉シェフ、ベルギー代表 松田シェフ、
ショコラトリーヒサシ 小野林シェフ

是非次回の大会も、多くの選手にトライして頂き、さらにWCMを盛り上げていきたいと思います。この度は皆様本当にお疲れさまでした!


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