「ワールド チョコレート マスターズ」(以下「WCM」と表記)に出場されたシェフをご紹介。
松田 詢吾(とうご)シェフは現在ベルギー在住4年目で、パティスリーYasushi Sasaki(ベルギー、ブリュッセル)のオーナーシェフである佐々木靖氏に師事、日々修行に励んでいます。2022年 WCM第8回大会にベルギー代表として出場し、総合8位を獲得しました。 佐々木シェフは大会中、松田シェフのアシスタントを務め、最も近いところから松田シェフの活躍を見守りました。
WCM’22ワールドファイナル終了直後の11月初旬、佐々木シェフのお店兼ラボをお訪ねし、松田シェフと佐々木シェフの豪華なインタビューを行わせていただきました!
まずはインタビュー前編をお楽しみください。
~~前編トピックス~~
🍫日本からパリ・ベルギーへ!「海外で学びたい」松田シェフの強い想い
🍫ベルギー代表として出場することになったWCM、国内予選の壁とは?
🍫ワールドファイナル出場!意外な佐々木シェフからの助言とは?
🍫日本からパリ・ベルギーへ!「海外で学びたい」松田シェフの強い想い
― 松田シェフがパティシエになろうと思ったきっかけや、異国の地ベルギーで学ぶことになった経緯を教えてください。
松田シェフ(以下松):甘いものが好きっていうことが根底にあります。作るものと食べるもの、どうやったら両方兼ね備えたものになれるか?と考えた時に、大学じゃなく専門学校に行こうと思いまして。そこから大阪で一年制の専門学校に通った後に、「ル パティシエ タカギ」(東京都世田谷区)で3年半ほど勤務しました。
洋菓子=フランスだと思ったんで、ワーキングホリデービザで一年間パリに行きました。最初のお店はある人の紹介で、お菓子屋さんへ。その方もコンクールに出る人だったので、そこでもコンクールにも出させてもらいました。面白い経験だったんですけど、ちょっとビザが取れなさそうだったんで、他のところに移動して、あるレストランのオープニングでデザートをやっていました。
ワーキングホリデーは一年で絶対帰らないといけないんで日本に帰国したんですが、もう一度行きたいなと。そのためにコネクションがあって自由に動けるようなところで働きたくて、ジャン=ポール・エヴァン・ジャポンに一年ちょっといたんです。相談はしたんですけど、日本とフランスはグループが違うということで難しくて…。ただ、こちらの意向は理解してくれていたんです。
ベルギー発祥菓子・スペキュロスの木型を手に微笑む松田シェフ
エヴァンに在籍中、「デセール ル コントワール」(東京都世田谷区)の吉崎 大助シェフに「もう一回フランスに行きたいんです」って相談しました。するとシェフが「ラ・パティスリー・ベルジュ」(千葉県鴨川市)の鈴木 貴信シェフにその場で電話して、その場でベルジュに行くことが決まりました。決まって本当にすぐ…一週間は言い過ぎかもしれないですけど(笑)、でも本当に数週間の内にベルジュに行きました。
僕は一つの店に3年半はいようと考えていて。お店を持つ目標があって、長すぎてもプランが狂っちゃうんで、期間内でどこまで覚えられるかを考えながら動いています。ベルギーに行けたらいいなと思っていて、ベルジュで3年半ほど、コンクールや色々と経験させてもらってからベルギーの佐々木シェフのお店を紹介していただきました。
― 佐々木シェフのお店に来られる方は、松田シェフのように紹介が多いのですか?
佐々木シェフ(以下佐):場合によりますよ。特に最近は鴨川のベルジュの鈴木君からの紹介が多いんだけど、本人が直接来る子もいるし、知り合いのシェフからお願いされることもあるし、知らないシェフからも言われることもあります。逆に自分からも誰かいないか?というメールを送ることもあります。
ただ、労働許可証を取るのも、最近は少し早くなりましたが6~8ヵ月はかかります。それを考えると、お互いのために3年は続けてねってことでお願いしています。
― 松田シェフがお店に来られた時に、佐々木シェフはどのような印象をもたれましたか?
佐:松田くんは飲み込みも早いし、自分のポジションをしっかり理解してる。だから仕事はすごいやりやすいです。
松:ありがとうございます (照)
*WCMベルギー予選の様子はこちら
佐:WCMの国内予選が延びたのと、(WCMのルール上)最低1年は働かないと参加資格がないからね。1年働いてから、コンクールの情報を探してる矢先にコロナになって2年間は皆自粛ですよね。コロナで大会があったりなかったり、ちょっとややこしくて。大会を色々探してたんだよね。
松:そうなんです。なので、出られる大会は出ようと思ってました。今回はWCMのタイミングが合ったっていうのが大きいですね。
― 少し話は逸れますが、コロナ禍でお店は大変だったのではないでしょうか?
佐:お店を閉めても政府の補助もそれほどなく、状況を見ながらお店は開けていました。色んなことを学ぶために来てくれている従業員もいるし、僕自身もそんな悠長なこと言ってられないし。どれだけ気を付けても従業員の家族から感染してきたりするので、難しかった時期はありました。商売って難しいことに、閉めたらゼロになるんじゃなくて、もうマイナスでしかなくなります。
インタビュアー(以下イ):コロナ禍のタイミングもありつつ、出る大会を考えていたということですね。
松:その前にもフランスのディジョンのコンクールに出場しました(注:2019年 Dijon Grand Prix national de la gourmandiseで優勝)。持ち込みの大会だったんですが、片道500kmくらいあって佐々木さんに運転してもらいました。
佐:寝ながら運転してたよ(笑)
松:本当に、佐々木さんや色んな人の助けがないとできなかったです。
🍫ベルギー代表として出場することになったWCM、国内予選の壁とは?
― ベルギーの国内予選で優勝されましたが、当時の自信のほどは?
松:わからない状態で挑みました。まず自分ができるベストを尽くして、結果は結果だと思っていましたね。予選では失敗もなかったです。どちらかというとむしろ早く終わっちゃったような感じでした。
佐:松田くんはそのために努力と思います。彼は本番に対して強く、本番までしっかり準備すれば勝てると思っていました。
イ:ワールドファイナルの前日に初めてお会いした時、堂々とした様子が印象的でした。
松:堂々というか… (照)。国内予選の少し大きいバージョンっていうイメージだったんで。緊張もゼロでしたし、「あ~やばい!」っていう感じでもなかったと思います。とりあえずやる、自分がやってきたことをやらないと、と。プレッシャーはなかったです。
― ベルギー代表として日本人が選出されたわけですが、国内予選で感じたことはありましたか?
松:人種的な問題はやっぱり感じますよね。あとは言葉の問題です。
佐:国内予選はフラマン語圏の展示会場だったから、関係者もフラマン語の人が多かったんだよね(注:佐々木シェフのお店はフランス語圏のブリュッセル)。
松:僕は日本語・フラマン語の通訳をつけていました。競技が始まるまではアウェイだなとは思いましたけど、それを考えたところで変わるわけじゃないですか。始まってしまえば自分のことに集中できるんで、そこはあまり考えませんでした。
WCM ベルギー予選の様子
松:改めて思うのは、大会に佐々木さんの知り合いが多いんですね。審査員長が知り合いだったというのも大きいと思います。僕が他の店から出場しても、もしかしたら無理だったかもしれないです。わからないですが、コンクールとかは特にそういう力って恐らくどこの世界でもあるんでしょうけどね。
佐:コンクールの側面もわかってるので、公平に評価してもらうよう動きました。ルールを読みこんでない審査員がいたら、ルールに関係ないところを見て判断しないように。また審査に抜けている点があれば大会の運営側に伝えて、周りで調整していました。知らない奴に急に助言されても聞き入れてもらえないだろうし、知り合いだからできる。
松田くんにはコンクールに集中してもらって、その結果国内予選は5部門中4部門で1位という高評価を得ました。そこまで圧倒的に勝たないといけないっていうのはありましたよね。誰が見ても松田くんが代表だっていう雰囲気で挑んで勝てたっていうのはよかったです。
🍫ワールドファイナル出場!意外な佐々木シェフからの助言とは?
― ファイナルにはどのような気持ちで挑みましたか?
松:練習してきたことは絶対やらなきゃと思っていました。でも、必ず何か起こると想定して練習していたので、問題が起こっても落ち着いて対応すればいいのかなと。作業はもちろん急ぎますけど、気持ちは落ち着いてましたね。
イ:佐々木シェフは、松田シェフのアシスタントとして一番近いところで作業を見られていましたよね。
佐:松田くんはね、逆に何も言わない方がいけるから。ただ攻めすぎたところがあったから、ちゃんと3分前には終わらせるようにと、それだけは伝えました。例えばオーブンから出すタイミングは遅い方が少しでも温かくなるとか、アシエットも冷蔵庫に入れる方がいい、とか…「ちょっと松田君余裕かますのやめて、周りが疲れるから」って言ってました (笑)。
一同:(笑)
佐:国際大会で最初から最後まで上手く行ってる選手はあんまりいないと思う。それぞれ、山あり谷ありで苦労して、最後まで仕上げてきたんだなっていうのはすごく感じました。松田くんはその中でも安定してたから心配してなかったよね。ただ余裕かまさないようにと(笑)。
松:(笑) もちろんその後はちゃんと調整しながら動きました。時間オーバーは減点になるので、それだけはしないようにって思ってましたね。
佐:特にコンクールって減点法だから。プラス何点じゃなくて「できて当然」から引いていくから、そういうふうに減点にならないように。
イ:攻めすぎるなっていうのは珍しいパターンのアドバイスですね。
佐:やっぱりそれだけの準備をしたので。何回も何回もシミュレーションしてやってたから、あえて言うならそこかなと思いアドバイスしました。
― 作業中、腕時計に向かって話しかけていたのですが何だったのでしょうか?
松:あれはね、タイマーです。
佐:違うよ、えまちゃん(注:松田シェフの娘さん)の声を聴いてたんでしょ。
一同:(笑)
松:手でタイマーセットする時間がもったいないんで。一気に何個も同時にセットできますし。
佐:コンクール中は一瞬で飛ぶからね。審査員も話しかけてくるし。
松:そうなんです、場所に戻ってセットすると絶対忘れると思って。だからその移動する時にセットする。それに音じゃなくて振動で教えてくれるのもめちゃくちゃデカいですよね。
佐:松田くんは一番それをスマートに使ってたな。コンクールで使うべきだと思う。
大会に向けて作ったオリジナルチョコレート「Choco Togo」と一緒に
後編のインタビューは、こちら!WCM’22ファイナルの作品や今後の夢について語って頂きました。
京都府出身。辻製菓専門学校卒業後、ル パティシエ タカギ(東京都世田谷区)などで勤務。22歳の時にワーキングホリデーで渡仏。帰国後、ジャン=ポール・エヴァン・ジャポン、ラ パティスリー ベルジュ(千葉県鴨川市)で勤務後、2018年よりベルギー(ブリュッセル)にあるPâtisserie Chocolaterie Yasushi Sasakiに勤務し現在4年目となる。