WCM’22ベルギー代表の松田シェフと、師匠である佐々木シェフのインタビュー後編をお楽しみください!
前編はこちら
~~後編トピックス~~
🍫WCM’22を振り返って
🍫日本に戻る松田シェフ、ベルギーで活動を続ける佐々木シェフの今後
🍫松田シェフが表現した#TMRW(明日)とは?
ー 大会のテーマは#TMRWでしたが、松田シェフ個人は何をテーマにされていましたか?
松田シェフ(以下松):チョコレートで世界を変えるというより、皆で大きな問題に目を背けず見ましょう、ということで、ビジュアル的に伝わりやすい海の環境問題をテーマに、自然の再生能力をサポートできるような世界がより良い未来だと思って作品にしました。
#WOW(ショップウィンドウのチョコレートディスプレイ)
松:まず上部のクジラですが、もっと捻らないといけないと思って、ゴミをまとった様子を表現しました。難しかったのは動くところですかね。ルール上小さいモーターを使っていい事になっていて、自由に泳いでるような姿をどう再現できるかなと。僕の場合、全てを決めてから作るとズレが生じるんで、作って試してっていう作業をしていたんですが、夏の終わりごろまで時間がかかってしまいました。
下の大きなバイオミミクリーな造形部分は、時間がなくて一個しか作れなかったんです。これは完全に一点ものなんですよ。部品を完全に組みたてたのって本番が初めてだったんです。
佐々木シェフ(以下佐):だから汚さないように手で持って写真撮って、皆で話し合って色々試してね。難しかったよね。
松:そうなんです。こういう色が良いとかこの向きの方が良いって試すんですけど、ひとつしかないから壊さないように汚さないように、ヒヤヒヤですよね。
インタビュアー(以下イ):他の選手の作品を見ていると、時間が経つと崩れてしまったものもありましたが、松田シェフの作品は最後まで全く崩れませんでしたね。
松:僕はハイリスクなものはやらないようにしているので、ピエスモンテを壊したことがないんです。カチッとしたものしか作ってないとも言えますけど…。
佐:いや、僕が十分支えてたからね(笑)。壊したことないかもしれないけど、僕ずっと持ってたからね!(笑)
普段の3倍の時間支えた佐々木シェフ!
松:そうですよね (笑)
佐:僕が支えてて、手がプルプルし始めてるのに…
松:僕は「スイマセン!」ってピューって作業場に戻っちゃいましたからね(笑)。テンパリングのマシンがちょっと弱くて、最初全然固まらなくて。これはやばいともう一回取りに行き直して、それを佐々木さんに持っていただいて。
佐:壊すと時間のロスがすごいから、それならいつもの3倍の時間支えとこう!という感じで。
松:そのおかげでなんとかくっついた!って感じです。ただやっぱりスペインの作品は壊れてないし、全部完璧だったんで。誰が見てもあれは一位かなと思いますよね。
#DESIGN(小さなチョコレートデザイン)
イ:#DESIGNも海や自然をモチーフにしていて、他の作品とリンクしている印象を受けました。
松:ビジュアルはどの作品もちゃんと関連させようと思っていて。今回はその自然というもので海を表したんで、ビジュアルがブレてしまうと見てる人にも伝わらないと思うんで、そういう風に寄せました。
佐:#WOWと#DESIGNは、スペインに次いで松田君がどちらも総合2位だからね。
#BONBON(ボンボンショコラ)
松:フランスだとエンロービングですけど、ベルギーはムール(型)が主流なので、ムールは使いたいなと。レシピは予選の時に作ったボンボンの進化版のイメージで。底は玄米やスーパーフードを合わせてサクサクとした食感にしました。その上にベルギーの定番スペキュロスのガナッシュ。そして一番上がキャラメルとアグリュム(柑橘)。コブミカン(クンババ)のゼストをかけました。スパイシーなライムみたいな香りなんですね。予選の時もその印象が強かったらしいので、レシピは変え過ぎず深めようと思って作りました。
イ:国内予選は縦長の形でしたよね。
ワールドファイナル #BONBON 作品「AQUAPOLIS」
国内予選 #BONBON 作品「WHALE」
松:そうなんです、国内の時はクジラの下顎をイメージしたんですけど、型を抜いて色をつけただけなんで、それだとちょっと面白くないなと。今までにないボンボンを作るっていうルールだったんで、オリジナルでつくった型をあえて裏返して逆三角形にして、水に浮いている未来都市や循環装置をイメージしました。#DESIGNに近いものをイメージして作った感じです。味は他の選手と比べると結構攻めてた印象じゃないかと思います。後で思いましたが、万人受けする無難な方がいいんだなと。ビジュアルを重視し過ぎてしまったのかもしれないですね。
二朗さん(日本代表 田中二朗シェフ)のボンボンはすごく面白かったですし、新しいですよね。作業もちゃんとアプローチしたから、より評価されたんだと思います。
#SHARE(シェアするデザート)
パッケージをなるべく使いたくなくてミニマムにしたんですが、皆意外とカラフルなパッケージを使っていましたよね。結局それが審査員にとっては印象が強かったのかなと思います。もっとわかりやすく6人でシェアできるものが良かったのかなって後になっては思いますけど…
佐:いや、それは難しいよね。僕たちは皆それぞれが別々に食べるのが#SHAREじゃないかと考えて吉だと思ったのが、少し違ったというだけの話で。
松:そうなんですよね、ただもっとハッキリわかるものがいいのかもしれないですね。審査員も、他のインパクトある選手に比べると、「これ何かな?」って思ったのかもしれません。
松:作品のプレゼンテーションで、最初の英語の質問に対して、理解できず聞き返したんですね。そしたら、中に何が入っているか答えただけでプレゼンが終わってしまったんです。僕は海をテーマにクジラのヒレ、波や海藻のイメージをして作ったんですけど、どうやって食べるとか、どういうコンセプトで作ったかっていうのを伝えられなかったですね。
佐:言おうとしたら「フィニッシュ」って言われちゃってね。
松:そこが言いたかったのに終わってしまって。英語が得意じゃなかったっていうのもあったんだと思いますね。
#YOU(プレゼンテーション)
イ:DAY1の課題プレゼンは松田シェフが日本語、佐々木シェフがフランス語に通訳されていましたが、DAY2以降は急遽英語の通訳に変更されましたね。
佐:勝つためは臨機応変に変えないと。会場ではスピーチも聞こえないっていうのもあったけど、審査員には各選手のレシピがあるから伝わってると思う。
松:#YOUは英語でと思って準備していました。片言にならないようにしたくて、僕がカナダにいる妹にボイスメッセージを送って、何度も修正しました。全部の作品でそうしていれば、もっと自信をもって大きい声で伝えられたかもしれない。それは僕の準備不足です。
#TASTE 作品「REBIRTH」
#TRANSFORM 作品「RESTRICTION FREE MIND NUTRITION CHALLENGE」
🍫WCM’22を振り返って
ー 松田シェフの総合結果8位について、どのように思われますか?松:ピエスモンテ(#WOW、#DESIGN)だけに偏りすぎたなって思いました。
佐:それは結果論だよ。僕も傍で見ていてちゃんとやってたわけだから。
松:ただやっぱり、アピール力は足りなさすぎだなと思いました。この作業を見せたいって気持ちはあるんですけど、「これなら誰もやっているような気がするな」と思ってしまって、そこを頑張ってアピールしてもなあと…。
佐:松田くん逆にね、結果が出たら何とでも言える。だからもしかしたら、松田くんが一位だったら松田スタイルが流行ったかもしれない。だから僕は敗因ではないと思うよね。仕事は綺麗にやってたし。洗い物は多かったけど(笑)
一同:(笑)
松:すげー洗い物多かったですよね。
佐:競技終了後の翌日の準備と撤収の時間が少なく、てんやわんやだった(笑)。それでもね、全部うまくやったよ。でもね、点数を見たらなるほどなというような感じはする。審査員によって嫌いなもの・知らないものの点数の下げ方と、馴染みのあるものの差が大きかったんじゃないかなと思う。
ー 松田シェフは、二朗シェフの作品についてどう思われましたか?
松:昔からWPTCや前回の国内予選(WCM2018)も見ていたんです。ピエスモンテでは絶対に勝てないなと思いました。二朗さんは、僕のできる事は多分全部できると思います。なので僕はあえて、例えば動きをつけて勝負しようと思ってピエスに力を入れていました。
今回、二朗さんはシンプルに文字でのアピールを選んだじゃないですか。ミニマリズムですよね。文字って、説明しないと分からないものですよね。審査員には説明したらわかりますけど、一般の人は分からない。そこはちょっと難しいだろうなと思いました。ただ二朗さんはアピールできる人なので、あえて新しいチャレンジをしたんだろうな、潔いなと思いました。
ー 佐々木シェフは、今回の大会全体に対してどのような印象をもたれましたか?
佐:SNSでの発信に力を入れてるなっていうのはすごく感じました。考え方や進行の仕方もグローバルで、素晴らしいコンクールだと思います。職人目線から見てこうした方がいい、ああした方がいいっていうのは多少ありましたが。如何にテーマに沿って自分の考えを掘り下げて表現、制作できるかという点が重要だと思いました。
🍫日本に戻る松田シェフ、ベルギーで活動を続ける佐々木シェフの今後
ー 松田シェフの今後の目標をお聞かせください。
松:和泉さん(アステリスク 和泉光一シェフ)や水野さん(洋菓子マウンテン 水野直己シェフ)と話して、またWCMに挑戦したいっていう気持ちが沸きました。一度やったら色々わかったというか、課題をクリアしたら行けるんじゃないかと思いました。もちろん資金面とか色々とあるんですけど。
来年(2023年)、北海道に戻るんです。将来自分のお店を出したいと思って動いてるんで、コンクールのために延ばすよりも先にお店を出したいなと思っています。
ー 佐々木シェフはこれからベルギーでどのように活動されていきたいと思っていますか?
佐:これからも今までもですが、お菓子を好きでいる為にも自分のしたいことを優先に商売をしていくと思います。ただチャンスがあればまだまだチャレンジしていきます。
今後日本から来てくれる若い子達には、コンクールに出場を希望する場合は応援します。コンクールは宣伝効果もありますけど、余程優勝しないとそうはならないものだし。ただコンクールの醍醐味は、大変さ、納得できないこと、色んな波があって乗り越えるのは商売と一緒。長く続けるということを考えた時に、短い数カ月で経験できるのがコンクールだと思っています。
― 最後に
松田シェフ、そして佐々木シェフ、インタビューをお受けいただき本当にありがとうございました。
松田シェフはお会いした当初、常に冷静で堂々とした方という印象でした。それはご自身の夢の実現に向けて「どうすればそこに辿り着けるか」を考えて行動をしているからこその振る舞いなのだと、心の底に秘めた熱い気持ちをこのインタビューで垣間見ることが出来ました。
今回、佐々木シェフのお店にお邪魔させていただき、ラボに作った #WOW の仮設練習スペースを見せて頂きました。その場所で、従業員の皆さんも一丸となって作品を作り上げたのが目に浮かぶようでした。
松田シェフの「佐々木さんがいたからこそワールドファイナルに出られた」という言葉が佐々木シェフの全てを物語っているのではないでしょうか。
これからもお二人のご活躍を応援しております!
ワールドファイナル結果発表後の清々しい表情。本当にお疲れ様でした!
京都府出身。辻製菓専門学校卒業後、ル パティシエ タカギ(東京都世田谷区)などで勤務。22歳の時にワーキングホリデーで渡仏。帰国後、ジャン=ポール・エヴァン・ジャポン、ラ パティスリー ベルジュ(千葉県鴨川市)で勤務後、2018年よりベルギー(ブリュッセル)にあるPâtisserie Chocolaterie Yasushi Sasakiに勤務し現在4年目となる。