RAUパティスリー&チョコレート 松下シェフ&高木シェフへインタビュー!前編

2023年6月23日金曜日

WCM21/22 インタビュー

t f B! P L

 

左:松下裕介シェフ 右:高木幸世シェフ

2023年5月24日、「RAU パティスリー&チョコレート」の新作デセール試食会にお邪魔させていただきました!

「ワールド チョコレート マスターズ ’22」(以下「WCM」と表記)の審査委員長団にデュオで選出されたシェフパティシエ 松下裕介シェフとショコラティエール 高木幸世シェフ。

ここで発表された1年ぶりの新作デセール2品の「Ame」と「Asu」。特に「Asu」は、WCM’22のテーマ #TMRW(明日)をシェフご自身で解釈して生み出したもので、WCMジャパンにとっても重要な作品です。

お二人の作品に対する想いをお伺いすると共に「情景を形状で表現した独創的なスイーツ」をたっぷりと堪能させていただきました。

さらに、試食会の後お時間を頂き、特別にインタビューを敢行!お二人のインタビュー前編をご覧ください。

新作デセール「Ame」: 雨に濡れた世界が放つ、繊細で美しい情景。青と緑の柔らかなグラデーションがかかった形状は石造りの街を、そこに雨が降り生命が輝きはじめる様子を透明の雫で、ドライフラワーは渇きから潤いゆく様子を表現しました。様々なテクスチャーのアーモンドを重ね、周りはローズとバニラの甘い香りが漂うヨーグルトムースで覆っています。(新デセール試食会資料より)


~~~~トピックス~~~~

🍫WCM’22:敢えて日本チームと距離を置いた大会前。そして、日本人のアイデンティティとは?
🍫「やってきたことは間違ってなかった」シェフお二人の想いが報われた時 


🍫WCM’22:敢えて日本チームと距離を置いた大会前。そして、日本人のアイデンティティとは?

松下シェフ(以下松):初めての経験ですし、印象深いことしかないです。お話を頂いた時のプレッシャーはすごかったです。選んでいただけるなんて、殆どのパティシエの方が経験できないことだと思うんです。
WCMは大きな大会で、人生かけて挑戦し続けている方々がいることはもちろん知っていました。
僕も若い頃、水野さん(洋菓子マウンテン 水野直己シェフ)の時代、なんなら和泉さん(アステリスク 和泉光一シェフ)の時からずっと追いかけたんで。僕は出場したことはないですが、思い入れのある大会だったので感慨深いですよね。
自分はド田舎出身なんですけど、田舎のパティスリーで働いてたときに、水野さんが日本人で初めて優勝したっていう記事をバス停で読んでたんです。

高木シェフ(以下高):バス停?(笑)

松:そう、田舎なんでバス。人口数万人の町で、車が無かったんで(笑) 。当時自分が20歳ぐらいで、水野さんは確か26、27歳。6個か7個年上の方が世界で活躍するなんてすごいなって憧れてました。あの天狗の作品を見て僕は感銘を受けたっていうくらい。まさかそこに自分が関われるっていうのは本当にね、ありがたかったです。プレッシャーで本当にどうしようという感じでしたね。

高:プレッシャー、本当にめちゃめちゃプレッシャーの3日間でしたよね。

大会中の審査の様子

松:そう。大会の1年ぐらい前からお話を頂いていました。
実は、大会前に二朗さん(CALVA 田中二朗シェフ)たちが、お店に挨拶をしに来ていただいたことがありまして。後で聞いたのは、二朗さんが「本当はここに来たくなかった」っておっしゃってたらしいんです。
理由は、審査委員長と仲良くして、その事実がもしも漏れて印象が悪くなってしまったら、自分のやってきたことに、何かしらマイナスに働くのは嫌だから来たくなかったと。

でも尾形さん(バリーカレボージャパン 尾形シェフ)が「大丈夫だよ」って説得してお店に来たって聞いたときに、「僕たちも仲良くするのやめよう」と思いました。言い方は難しいんですけど、ちゃんと線を引かないといけないと思ったんです。「これはあかん、僕らはツッパろう」と (笑)。そうしないと妥協しちゃう。二朗さんはもちろん大先輩なので、実際仲良くなれるかはわからないけど、仲良くなっちゃうと公正に見れないんじゃないかと。その時に(田中シェフが)人生を賭けてらっしゃると改めて思いました。

高:わたしたちも絶対真剣に挑まないと絶対駄目だと思って。震えましたよね。

松:僕たちは尖がろうと思って。もちろん敵対するわけではないんですけど、仲良くはしない、と。


― 審査委員長という俯瞰的な目で見て、日本の作品に感じたことはありますか?

松:やっぱり考える深さですね。考えすぎなんじゃないかっていう位に考えてるのが印象的でしたね。二朗さんの作品やメッセージ。審査員に手紙を配るとか、そういうアクションって、上位の方たちしかされてない。
スペインの方(優勝したLluc Crusellas氏)も、モナリザの型を渡すパフォーマンスをしてましたよね。これは恐らく、経験者の方たちの意見を取り入れてやられてるんだなと思いました。#TMRWっていうテーマ、コンセプトに対するアプローチの仕方は二朗さんが圧倒的でした。

高:うん、私たちもああいったものを求められてるんだろうと思ってたんですよね。

松:もし代表になれたとしたら、あれぐらい深く考えると思う。国民性なのか、日本の洋菓子業界の真面目さなのか。

高:日本人って、回りくどいって結構言われるって聞いたんですよ。何が言いたいのかはっきりしてないと。でもその回りくどさって、ちゃんと伝えようとする日本人のアイデンティティじゃないのかなって思ってるんです。
ちゃんと下から固めていって、言いたいことはこれなんだ、わかってほしいっていうのを全て伝える努力をする、というのが日本人の良いところなんですね。
二朗さんがやってらっしゃったことって、全部を伝えたいと思う強いパッションがあった結果だったと思うんで、あれが伝わるべきだったんだろうと思う。

大会中の審査の様子

松:審査員も、ほとんどの方は英語ができる方ですけど、国や言語の違いもあるし、正直なところ全員が全てを聞いてるわけではない。二朗さんは、それも理解されてるんだと思うんです。その上で、意味のあることをやろうとしてると思う。
もっとキャッチーにわかりやすくやろうと思えば、技術的にできると思うんです。日本のトップシェフの人たちって、あえてそこでチャレンジしていくっていう、そこに感銘を受けましたね。

高:「明日を変えたい」って強い思いを本当にそういうところで感じたよね。

松:狙って勝とうと思えば勝てる。お金をかけて、わかりやすくすることもできたと思うんです。
それでも「職人」として人生を賭けている、何かを成し遂げるっていう強い思いがある人たちって、自分の信念を曲げないから。それが日本独特の感性を生むと思いますね。

高:熱い思いでテーマ深く理解しよう、ちゃんと伝えようとするパワーが圧倒的だったと思います。

松:味覚で部門賞を3つ獲ったので、きちんと伝わったんだろうなって思いました。他の国の作品は、食べやすくてキャッチーな味だったんです。でも二朗さんの作品の中でも、特にアレルゲンフリーのジェラートのショコラ(#SHARE)。深い味がしたんですよ。ただ単にチョコレートだけじゃなくて、渋みもあり、酸味も残っていて。正直これってコンテスト的に伝わるのかな?って思うものもあったんです。それでも味覚一位。熱い想いは伝わってるんだなって思いました。


🍫WCM’22:敢えて日本チームと距離を置いた大会前。そして、日本人のアイデンティティとは?

― WCMに審査員として参画されて、お店でも何か影響を受けたことはありますか?

松:宣伝効果抜群ですよね(笑)。宣伝効果って言うと失礼ですけど、人に伝わりやすくなりました。
WCMに呼んでいただけたってなると、お客様には「すごいお店なんだ」って言っていただけますし、働いているスタッフにも伝わるところがあったと思います。
我々の出しているお菓子って独特の感性で作ってる部分がありまして。
ショートケーキやロールケーキが悪いわけではないんですが、若い子たちは普通のケーキが作りたくなっちゃうんです。見て学ぶっていう文化ではあると思うんですけど、僕たちのお菓子は見て学べない。
感性の部分っていうのは、興味を持って身近で感じて、影響を受けないと学べない部分があるんです。
独特の形の作り方、味の構成、アイディアの見つけ方って、なかなか作ってる人たちのモチベーションに繋がらないんですね。

高:見た目は面白いし話題にはなるんですけど、作る人側は「結局型で作ってるよね」と目で見ちゃう。

松:でも、今の子たちにはある意味何かを示せたかなと思います。僕たちが認められたのを証明できたというか、より何か取り組む姿勢、価値のあるものを作ってたんだっていうのが伝わったかなと。
今までは「映えててどこにもなくて、お客さんがインスタに上げてくれる面白いケーキ」、程度の認識だったのかもしれないんですけど、「自分たちがこれを作ってるんだ」っていうのが芽生えたんでしょうね。商品のクオリティも上がりましたし。

高:難しいことをやってるんで、認めてもらえないと思うこともよくあるんです。葛藤がずっとあって、でも自分たちの信念は曲げたくなくて。ずっとやり続けてきたけど、やっぱり心が折れそうになる。やってもわかってもらえない。
それが今回この機会をいただけたことで、やってきたことが間違ってなかったんだと励まされました。やっぱり続ける必要があるんだと。それが「Asu」の「歯がゆさ」のきっかけになりました。

― 歯がゆさをあらわした新デセール「Asu」とは?後編はこちら


シェフプロフィール:

シェフパティシエ 松下 裕介 

1984年富山県生まれ。

東京のパティスリーやショコラトリーで修行した後、2014 年、29 歳の時に当時日本にはなかったアシェットデセールをコースで提供するお店 【 Calme Elan 】 を東京にオープンする。2016 年には著者 【 専門店のアシェットデセール】 を出版 。 韓国、台湾 、中国などアジア各国で販売。 2017 年にマレーシアの5つ星ホテルからシェフパティシエのオファーを受け 、 知見を広める為に自店を閉店 。 同年現職のオファーを受け帰国し 、 高木幸世と共に南米や 、 ヨーロッパを旅し 、 それらの経験を RAU のブランドコンセプトや商品開発に生かした 、今までにないお菓子を発信する 。 「 ワールド チョコレート マスターズ 22 」 の審査委員長団にも選出 。

シェフショコラティエール 高木 幸世

1990年兵庫県生まれ 。

パン職人の父の影響で食の世界を志し、17歳の時に東京のフレンチレストランで料理人としてキャリアをスタート。東京のパティスリーやショコラトリーなどで経験を積み、2014年に現在のRAUのシェフパティシエを務める松下裕介のアシェットデセール専門店【Calme Elan】にてオープンからショコラティエとして腕を振るったのち、パリの2つ星レストランでシェフパティシエールとして働く。2018年にRAUのシェフショコラティエールの誘いを受け帰国し、ブランドコンセプトや、ショコラだけでなく商品全般の開発など多岐に渡り活躍する。

2021年12月には自身の名を冠するブランド【Sachi Takagi】をリリース。植物の力を使い”菓子”の分野で表現。完全プランツベースの新しい菓子の形を追い求めて、創作を行っている。アジア人女性初の「ワールド チョコレート マスターズ22」の審査委員長団に選出。

SHOP INFO:

RAU Patisserie & Chocolate 

〒600-8022京都府京都市下京区河原町通四条下ル2丁目稲荷町318番6 GOOD NATURE STATION 1F/3F
1F TOGO/営業時間10:00~19:00
3F EAT IN/営業時間11:00~19:00(18:30L.O.)
電話075-352-3724 (3F)
定休日:施設に準ずる
ホームページ
Instagram








QooQ