歴代シェフインタビュー: 第1回 2005年代表 アステリスク 和泉光一シェフ(後編)

2022年7月19日火曜日

WCM21/22 インタビュー 大会-概要 大会-日本

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「ワールド チョコレート マスターズ」(以下「WCM」と表記)に出場された歴代シェフの皆様をご紹介。
 「アステリスク」オーナーシェフである、和泉光一シェフのインタビュー後編をお楽しみください!
前編はこちら


17年封印した伝説のレシピ「エクロジオン」の復活

― WCM2005で見事一位を獲得したアシェットデセール、卵からの誕生を表現した「エクロジオン」。今年のバレンタインには、シェフのお店で17年振りの復活を果たしましたが、なぜ今だったのでしょうか?

アシェットデセールで1位を取って、当時スリジェの豊島さん(注:豊嶋正料理長)の一番高いフレンチコースの最後のアシェットでエクロジオンを提供していた。
それがすごく目立ってたんで、テレビ局から「このレシピで対決しませんか」って電話があって。ただ、大きな力が働いて負けちゃった。当時は純粋だったから ― 今はちょっと汚れてるかもしれないけど(笑) ― その結果を真に受けて…。
その番組で、負けた方はもうこれを二度と世の中に出さないっていう「封印」ルールがあったの。僕はそのルールを受け入れて対決したので、負けて以来ずっと封印してた。
でも実は番組の後、関係者が群がって食べていたぐらい美味しかった。それでも負けたんだよ。
だから、僕がテレビに出たのはそれが最後なんですよ。絶対出ねえって、へそ曲げてしまったんですよね。
真実が伝わらないなら出る必要もねえなって。それからもう僕はあんまり出なくなった。
その後他の大会で同じ技法でやろうって話が出ても、「ごめん、あれは使わない」って、頑なに使わなかった。使ったら全てを認める気がしてたから。

ただ、ちょうどコロナもあって世の中がちょっと変になっちゃったじゃない。
そこにホールフルーツチョコレート(注:100%カカオフルーツから作られた新しいチョコレート)が出て、パッと食べた時に絶対にエクロジオンに合うって思った。マンゴに合うっていうのがすぐわかっちゃった。
しかも、包材屋さんが「和泉さん、これ新商品なんだけど使えるかな?」って持ってきたのが丸いコロンとしたカップ。
もうフォルムすら卵にそっくりだったんで、全体のバランスは変えずに17年ぶりに新しくリニューアル。復活させたらすごい反応が良くて、知らない人も美味しいって言うし、常連さんも「なんだ、このお菓子!」って言って、未だに電話がかかってくる。
でも、通常発売はしない。言われれば言われるほどやらない(笑)。折りを見て、イベントの時にまた提供していこうかなと思ってる。
僕の人生を変えたお菓子、エクロジオンは。


復刻版エクロジオン構成(下から):
 *クレームランベルセオショコラ
 *クレームマングエピセ
 *キャラメルエキゾティックバニーユ
 *クレームショコラブランココ
 *ソースパッションロマラン
 *クリスティアンアマンド
 *マングマリネオジーヌ
 *ビスキュイショコラ
 *シャンティショコラ
 *グリュエドカカオキャラメリゼ
 *ロマラン
 *プラークショコラ

チョコレートを理論化する面白さを世に解き放ったマスターズ

― 第1回大会から現在まで17年経ち、WCMの変わらないこととはなんでしょうか? 

WCMに出場した当時、「この大会はすごくなる」って肌で感じたね。日本人が優勝できる可能性があるってすごく感じたの。
ただ僕は次の大会も待っていたし、もうこの先出ていくこともできない。
水野直己(注:第2回 2007年日本代表)は、僕のアメリカの大会の予選を見て「チョコレートやりたい」と思ってくれて…弟分みたいにかわいがってるんだけど、アイツに託そうと思った。それで見事、優勝してくれた。

WCMは、本当に日本人が挑戦しやすい。まず公平であること。これがすごく重要で、第1回大会で3位に立った僕は「え、アジア人が入賞できるんだ」と思ってびっくりした。
第1回大会から今まで、僕がずっと見てきて思うことは、WCMが日本人のショコラスキルを上げたのは間違いない。それまでは、皆こだわっていなかった。なんとなくテンパリング、なんとなくガナッシュ作り。

チョコレートを理論化する面白さを世に解き放ったのはマスターズだと思う。
それまで理論がなかった、なんにもなかった。理論を知らずに代表になると、とんでもない結果になる。やはりショコラを熟知した国が上位に入ってくるから。
ずっと変わらないのは、やはりショコラのレベルをいきなり上げたマスターズ。

コンクールってメーカーが商売として売りたい部分が絶対あるじゃん。それがちらちら見えちゃうんだよね。だからあまりルールが変わらない。裏方やってるからよく知ってるんだけど、勝たせたい国と別の国が競ったとしたら、前者がピュッて優勝するのがコンクールなんだよね。
でもWCMに関しては、審査員になった時に「なんてクリーンなんだ」って思った。
僕はWCM2015で日本代表の審査員としてパリ本選の審査に参加したんだけど、実は準優勝になった小野林の場合、本来だと再審査になるレベルだったくらい、点数はかなり僅差だった。
だけど「この結果が出ている以上これが結果だから、やめよう」って皆が言ったんだよ。


― では、WCMはどのように変化してきたでしょうか?

一番転換したなと思うのは小野林の時(注:第6回 2015年日本代表:小野林 範氏)。その後の垣本(注:第7回 2018年日本代表:垣本 晃宏氏)、そして今回(注:第8回 21/22年日本代表:田中 二朗氏)。
レギュレーションに世の今の風潮入れる大会になったのが、大きく変わった瞬間だった。

ある方面からは、最近よく「それって本当にコンペティションか?大丈夫か?」って言われる。
選手が技術を競い合うのがコンクールだ、って考えるシェフはたくさんいらっしゃる。その中でマスターズって異質。でもマスターズを目指したい職人さんって山ほどいるじゃん。「ここを通っていくとチョコレートのスペシャリストになれる」っていうすごいコンクールを作ったのよ。

小野林の時から、会場設営、審査員、ブースの魅せ方、全てが変わった。
今まで見たことないブースの作り方。横向いてるってえげつないじゃん。
「全く変えてきたんだな」って思ったね。よりショコラに特化して、より世の中に特化して、いわゆるコンクールを超越した、もう一歩先の大会になったなって。
だから正直、僕が今代表になってもこなせるかなっていう心配がある。技術でうんぬんだけではどうしようもなくて。

(第7回 2018年ワールドファイナルの様子)

テーマ#TMRWの難解さ - 国内予選で完璧だった田中二朗シェフ

― 今年のテーマ#TMRW(明日)はとくに難しいテーマだとおっしゃっていました。

前回のテーマが「フュートロポリス」(注:第7回 2018年 FUTURE 未来 とMETROPOLIS大都市 を掛け合わせた造語)だった時に、田中二朗が行くもんだと思ってたけど2位だった。
正直言うと、今回代表に選ばれて良かったと思う。
テーマが未来に飛んだじゃないですか。ルールって意外に、過去と未来を行ったり来たりしてる。フュートロポリス(未来)の次は下がるかなと思ったら、未来だった時にすごいと思った。僕は過去に戻ると思ったんだよね。

「明日」って、一番難しいじゃない。何が起こるかわからないけど、とてつもなく現実的でしょ。そんな「明日」をテーマに持ってくる。
身近に捉えるか、未来と捉えるか、そこが#TMRWは自由に解釈できる。すげーなと思った。このテーマを考えた人、誰なんだろう。
フュートロポリスは空想の世界。勝手に自分の頭の中でイメージを作っちゃえばテーマとして成立するんだけど、今回は「明日」だから。チョコレートを使ってどう表現するんだろう。
それにレギュレーションも、時代を反映したような食材の使い方とか、前回と違うところもある。


― 今大会で田中二朗シェフが日本代表に選ばれた理由は?

ルールをきちんとかみ砕いていた。何よりも、前回負けたことの苦労を知ってたし、勝つっていう勢いもあった。相当な準備をしてきて、彼はそれを表に出さないまま戦った。「#TMRW」のルールをあそこまで解釈して深読みしてたのは、あの中で一人だけだった。
それに美味しい。ああいうルールだと、とんでもないものが生まれがちなのね。
新しいけどあんまり美味しくないとか…。
それをちゃんと落とし込んで、新しい食材を使いながら味も美味しい、魅せ方も美しい、無駄も無い…「もう、いやらしいな!」って感じ(笑) 僕はもう相手がいなかったと思う。完璧。

― インタビューを終えて…

取材に同席した全員がシェフのお話に爆笑し、感動したことは言うまでもありません。人を惹きつける魅力が、シェフの声や言葉、出で立ちから、バンバン伝わってきました。
シェフのマスターズへの想いを感じ取って頂き、皆様にもますますマスターズの魅力が伝わると嬉しい限りです…!

和泉シェフ、お忙しいところお話をお聞かせいただきありがとうございました!


シェフプロフィール :
和泉 光一
アステリスク オーナーシェフ社団法人東京都洋菓子協会・技術指導部委員。
東京・調布の「サロン・ド・テ・スリジェ」のシェフ・パティシエとして長年勤務し、数々の受賞歴がある。
「ワールド チョコレート マスターズ 2005」にて総合第3位に輝き、2007年カレボー大使に就任。
アジア各国での講習会やコンサルタント活動も精力的に行いながら、渋谷区上原の人気店『アステリスク』のオーナーシェフを務める。

SHOP INFO :
ASTERISQUE
営業時間 10:00~18:00
〒151-0064 東京都渋谷区上原1-26-16タマテクノビル1F
小田急線「代々木上原駅」より徒歩2分
Tel / Fax 03-6416-8080
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